この本を読もうと思ったのは・・・

読んだ本の感想です。

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

多和田葉子『地球にちりばめられて』講談社

「語学を勉強することで第二のアイデンティティが獲得できると思うと愉快でならない。」(p.140) 言語を問われるのは、アイデンティティを問われるのに等しい。 主人公は留学中に母国が消滅してしまった女性。母国が存在しなくなった人たちを集めたテレビ番…

保坂和志『ハレルヤ』新潮社

「与えられた一つのものだけが必然なのではない、出来事は多くの可能性の一つとして偶然である、出来事は全体の一部、立体の一部なのだ。」(「こことよそ」p.115) この本を読みながら私は現在と過去の往還のようなことを考えさせられていました。 表題作「…

円城塔『文字渦』新潮社

「昔、文字は本当に生きていたのじゃないかと思わないかい」(「梅枝」p.104) この本には文字をテーマにした短編が12編、収められています。どれを読んでも私には理解がむずかしいものでした。それは文字が他の何かと入れ替わっているらしいものの、その設…

早坂吝『探偵AIのリアル・ディープラーニング』新潮文庫nex

「人に相似しているが、人ならざるもの。それが彼女なのだろうか。それが人工知能なのだろうか。」(p.80) 父親を殺された主人公は、彼の形見である人工知能とともに犯罪を捜査するようになります。その過程でシンギュラリティを是とし、その到来の前に人類…

王城夕紀『青の数学』新潮文庫nex

「振り返るなと 立ち止まるなと 歩き続けても この世に果てなどないと 本当はとっくに 気付いてたさ」 (柴田淳『それでも来た道』) この本を読みながら私は柴田淳さんの歌を口ずさんでいました。それは約束から数学をずっとやり続けようとする主人公の姿が…

伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』光文社新書

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』、示唆に富むタイトルです。最初の「見えない」は文字通り視覚の欠如を指します。一方、二番目の「見ている」は捉え方、認識を意味しています。異なる意味を同じ「見る」という動詞で表せるために「見えない人が…

施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』4巻 一迅社

「読書ってなんでするのかな?」(p.3) このマンガを読んでいていつも考えさせられることです。 「読んだけど内容覚えてないって」(p.76) このマンガの登場人物たちは本のことで語りあっています。その内容にまで踏み込んで。対して自分は内容を覚えてい…

乾ルカ『わたしの忘れ物』東京創元社

「あなたは行くべきよ。断らないでね」(p.13) 主人公である女子大生は大学の奨学係からアルバイトを斡旋されます。勤務先は商業施設の忘れ物預り所。乗り気でなかった彼女ですが。この本は、遺失物拾得所を舞台に日常の謎のミステリが綴られる短編連作集で…