この本を読もうと思ったのは・・・

読んだ本の感想です。

早坂吝『探偵AIのリアル・ディープラーニング』新潮文庫nex

 「人に相似しているが、人ならざるもの。それが彼女なのだろうか。それが人工知能なのだろうか。」(p.80)

 父親を殺された主人公は、彼の形見である人工知能とともに犯罪を捜査するようになります。その過程でシンギュラリティを是とし、その到来の前に人類世界を転覆してしまおうとするテロ集団と対決するようになります。

 「フレーム問題はディープラーニングの登場によって解決するかもしれない。」(「フレーム問題」p.50)

 この本は短編連作となっており、各話数では人工知能に関する問題がとりあげられます。

 「《犯人》は無から有を生み出さないといけませんから、事物を正確にイメージする能力が必要になってくる。つまりフレーム問題よりシンボルグラウンディング問題を起こしやすいんです。」(「シンボルグラウンディング問題」p.126)

 そして主人公側のAIには対となる人工知能が存在しています。探偵AIの対なので《犯人》です。

 「お前の存在意義は以相を対戦学習で成長させることだけにある」(p.69)

 私はこの対決や事件の解決方法を読みながら、これが人工知能らしいのかどうか分からないと思っていました。

 「心配しなくても人工知能の心はこんなことで傷付くほど弱くないよ」(「中国語の部屋」p.329)

 考えてみれば、何をもって人工知能らしい/らしくないを感じているのでしょうか。本文中で人工知能が行ったり考えたりしたことは、「人工知能が」と主語が分かっているから人工知能の行動や思考として受け入れています。でも、現実には人工知能ではなく人間である著者が書いているはずです。

 作中最後の話数「中国語の部屋」では人工知能の同定をめぐりチューリングテストのようなゲームが行われます。全部、著者が書いたことだと感じながら読むことで「人工知能らしい/らしくない」とはどういうことなのだろうという疑問は深まります。