この本を読もうと思ったのは・・・

読んだ本の感想です。

王城夕紀『青の数学』新潮文庫nex

 「振り返るなと 立ち止まるなと 歩き続けても

  この世に果てなどないと 本当はとっくに 気付いてたさ」

                      (柴田淳『それでも来た道』)

 

 この本を読みながら私は柴田淳さんの歌を口ずさんでいました。それは約束から数学をずっとやり続けようとする主人公の姿が歌詞に重なってきたからかもしれません。

 「誰もが、まるでどこかに辿り着けるように目を輝かせている」(p.15)

 主人公は高校生の少年です。そして作中には、数学をやり続けられなかった大人たちも登場します。

 「その先には何もないところを、自分は進んでいるのかもしれない。」(p.137)

 自分の取り組んでいる数学の問題が解決不可能なものだったとしたら、自分は最盛期を無駄に費やしているだけなのではないか。そんな懐疑は足枷となり歩みを止めます。それは、私には想像もつかない世界のことだけれども。

 「知りたいんです。数学の才能があるっていうのが、どういうことなのか」(p.75)

 ちょうど私は『目の見えない人は世界をどう見ているのか』という本を読んだところでした。その本では、読者に目が見えない人に変身してどう認識しているのかを追体験させることが企図されていました。同じように数学ができる人が世界をどう見ているのかを知ってみたい。あるいは、数学者の世界認識と数学者の数学認識を混同しないなら、数学の才能がある人にとって数学がどう認識されているのかを知ってみたい。

 主人公が数学は数字と論理でできていると諭される場面があります。数学がからきし駄目だった自分の学生時代を思うと、そんな風に数学のことを捉えられていれば、また違った付き合い方ができたのかもしれないと思います。

 「その人になれないから、憧れなんだよ」(p.265)

 私は数学が出来る人に憧れているのかもしれない。そして自分がそうはなれないことも知っている。

 歩き続けても辿りつくべき果てがないこと。それに気付いているように感じているから、作中で数学に取り組む高校生たちのひたむきさを羨むとともに憧れを抱くのだと思います。