この本を読もうと思ったのは・・・

読んだ本の感想です。

伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』光文社新書

 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』、示唆に富むタイトルです。最初の「見えない」は文字通り視覚の欠如を指します。一方、二番目の「見ている」は捉え方、認識を意味しています。異なる意味を同じ「見る」という動詞で表せるために「見えない人が見ている」という逆説的な響きがタイトルには伴っています。

 本文中、著者は度々「情報」と「意味」の違いに触れています。この違いは上で述べたタイトルに含まれる二つの「見る」の違いに対応したものです。

 「情報とは、報告者の主観を排した、客観的な内容のことを指します」(p.32)

 「『意味』とは、『情報』が具体的な文脈に置かれたときに生まれるものなのです。」(p.32)

 「見えない」という特殊な体についての身体論を構想している本書は、「空間」「感覚」「運動」「言葉」「ユーモア」という章を通じて「見えない人」がどう認識しているのかを読者に教えてくれます。具体的な内容は実際にお読みいただくとして、著者の研究活動を支える確信である「知ることは変身することである」(p.22)を体験することのできる1冊となっています。